トヨタ過労自殺事件・高裁も勝利!! 弁護士 福井悦子
トヨタ過労自殺事件の控訴審判決が7月8日、名古屋高等裁判所で 言い渡されました。判決は、「うつ病の発症と自殺には因果関係がある」として、遺族補償年金等の
不支給処分の取消を命じた一審判決を支持し、労基署側の控訴を棄却しました。
一審判決は、業務とうつ病の発症・増悪との間の相当因果関係の判断基準である
「社会通念上、当該精神疾患を発症させる一定以上の危険性」を誰を基準として
判断するかについて、いわゆる「弱者基準説」をうち立てましたが、労基署側は、
このような見解は「ストレス−脆弱性」理論の理解を間違っている、自殺の労災認定に
関する判断指針に基づいて「平均的労働者を基準として客観的に判断すべきだ」として
控訴していました。
控訴審では、労基署側は、精神障害等の労災認定にかかる専門検討会の座長
であった原田憲一元東大教授の証人尋問の外、現在の我が国の精神医学界の重鎮
五名の意見書を提出し、本件被災者の自殺が業務外であると認めさせようとしました。
しかし、控訴審判決が、「原田憲一医師の当審査における供述及び陳述書によれば、
通常想定される範囲の同種労働者のなかで最も脆弱な者を基準にするという
(一審の)考え方は、専門検討会や判断指針と共通するものであると認めれられる。
さらに、控訴人の主張する平均人基準説も、平均人としてどのような者を想定
しているのかが、必ずしも明らかではなく、平均という言葉が全体の2分の1程度の
水準を意味するものと理解することも可能ではあるが、判断指針と同程度の水準を
想定しているのであれば、前記の見解(=弱者基準説)と大差はないものと考えられる」
と認定したのは、原田証言が被災者側の主張を裏付け、労基署側にとっては裏目に
出たもので、痛快でした。判決は更に、判断指針を「適正にストレスの強度を
評価する明確な基準となっていない」とした上で、指針を形式的・機械的に当てはめた
運用実態をも批判しました。
この点は、指針の運用で苦しんでいる他の裁判や認定事件で大きな武器になると
思われます。
被災者の自殺から既に15年。労災保険は、被災者の突然の死により被災者の遺族が
経済的に困窮することを保障しようとする保険ですが、15年も経ってから保障したのでは
保険といえるのでしょうか。せめても、労基署側が上告しないよう願うばかりです。
(本稿出稿後、労基署側が上告を断念し、判決が確定しました。)