医療過誤チームでは、定期的に判例勉強会を開催しております。
今回は、盛岡地裁の令和7年2月13日判決をご紹介します。
概要
サービス付き高齢者向け住宅の入居者が住宅での食事中に食べ物を誤嚥したことにより死亡したところ、入居契約に基づいて入居者の生命・身体を誤嚥事故の危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務に違反したとして損害賠償を求めたが、棄却された事例
- 裁判所 盛岡地裁
- 結果 棄却
- 原告 患者(死亡時76歳)の相続人
- 被告 会社
経過
H27.5.31 患者、被告との間で入居契約締結。
R4.1.27
5:50p.m.頃 患者が夕食中に咳き込む。職員がそばに行き、「ゆっくり飲みこんでから口にいれてね」などと言ってその場を離れた。
患者は、箸を落とし、脱力して前傾姿勢となり、呼びかけに反応しなくなる。
5:55p.m.頃 看護師が駆け付け、患者の口から残っていた食べ物をかき出した後、看護師の指示により、患者を仰向けに寝かせたところ、その際、患者の手指が紫色になりチアノーゼが発生していた。
6:03p.m.頃 職員ら、救急隊を要請。
6:42p.m.頃 A病院へ搬送。
R4.1.28 8:45p.m. 患者死亡。
争点
- 1 安全配慮義務違反の有無
- 2 資料開示義務違反の有無
- 3 損害の発生及び額
裁判所の判断
1 争点1について
(原告の主張)
食事中のむせ・咳き込みは誤嚥を示す重要な症状であるから、被告の職員は、令和4年1月27日の夕食中に、入居者が咳き込んだ際に、咳をさせたり前傾姿勢をとらせたりするなどして喉頭に侵入した食物を喀出させ、喀出後に呼吸状態が安定したのを確認してから、食事を再開させる注意義務を負っていたのであり、少なくとも、入居者にいったん食事をやめさせ、呼吸状態が安定したのを確認してから食事を再開させるべきであった。
実際にも、本件事故以前、本件施設では、入居者がむせこんだ際、お膳ごと下げて食事を中断する対応をしていた。
それにもかかわらず、被告の職員は、同日の夕食中に亡入居者が咳き込んだのに対し、「ゆっくり飲み込んでから口に入れてね」と言うだけでその場から離れ、漫然と入居者に食事を継続させたのであるから、被告には入居者に対する安全配慮義務違反が認められる。
(裁判所の判断)
被告は、本件入居契約(状況把握サービス、生活相談サービス)に基づき、食事の際の声掛けや見守りを行い、また、誤嚥事故等が生じた場合には必要な措置を講ずること等により、入居者の生命・身体を誤嚥事故等の危険から保護するよう配慮すべき一般的な注意義務を負っていたものと認められるが、その程度としては、医療機関等に求められるような医学的・専門的知見を前提とした高度の水準のものということはできない。
そのため、原告ら提出書証(看護専門情報誌)記載の注意義務は被告に課されておらず、被告に入居者に対する安全配慮義務違反はない。
2 争点2について
(原告の主張)
被告の職員の誤った説明により、原告らは、本件事故の当日のケース記録以外に入居者の記録は存在しないと誤解し、同年8月16日に原告ら訴訟代理人が資料開示請求を行うまで開示請求を行うことを妨げられたのであるから、被告には、原告らに対する資料開示義務違反がある。
(裁判所の判断)
被告職員が、原告らに対し、本件事故の事故報告書以外に記録はない旨の説明をしたとは認められないから、被告に、原告らに対する資料開示義務違反があったとは認められない。
*争点3の判断なし。


